いわゆる富裕層と呼ばれる人たちにとって、日本の税率の高さは大きな悩みのタネとなっていることだろう。
特に、ヘッジファンドを運用している人にとっては、せっかく形成した資産をみすみす逃したくないと考えているのではないろうか。
そんなとき、よく聞くのがドバイなどに代表されるタックスヘイブンの活用だ。
この記事では、一例としてドバイがいかにしてタックスヘイブン税節体制を敷くようになったかについて言及し、タックスヘイブンを利用して節税することは本当に可能なのかについて説明する。
ドバイとは、アラブ首長国連邦(UAE)に属する首長国の一つであり、「近未来都市」と呼ばれるほど発展著しい地域である。
そのため、皆さんはドバイに対して「石油がたくさん取れる国」「与沢翼など日本のお金持ちも移住している」といった、資源に恵まれた裕福なイメージを持たれている方が多いのではないだろうか。
確かに、ドバイは原油産業を産業の中心に据え目覚ましい成長を遂げた。
しかしその実、ドバイでは石油がほとんど取れないということを知っている方はさほどいないのではないだろうか。
実際にオイルマネーで潤っているのは、アラブ首長国連邦のもう一つの首長国・アブダビであり、ドバイはそのおこぼれ預かっているに過ぎない。
ほんの数年前まで、ドバイは重大な金欠状態に陥っていたのである。
そのことを示す例として、世界一高いタワーと呼ばれる「ブルジュ・カリファ」の建設が有名だろう。
2009年、ドバイショックにより当初計画していたブルジュ・カリファを建設費用が枯渇してしまったドバイはアブダビに資金援助を求めたのである。
そのため、用意していた「ブルジュ・ドバイ」という仮名をアブダビに由来する「カリファ」という名に献上し、「ブルジュ・カリファ」という名称になったのだ。
実際のドバイは広大な砂漠の中に突如近未来的な建物が立ち並ぶという、ある種奇妙な光景が並ぶ地域ともいえる。
しかし、何もないからこそドバイを盛り上げるために世界一高いタワーや世界一高いホテル、世界一大きい人工島、世界一大きいモールなどを作っていったという背景がある。
ドバイの発展は、アブダビの支援とその自己PR能力の高さに所以するものなのだ。
とはいえ、いつまでもアブダビによる石油依存を続けていても未来はない。
そこで1985年に新たに打ち出した政策が、100%外資企業を設立できる「フリーゾーン」の設置である。
海外企業を積極的に誘致することで、外貨の獲得を試みたのだ。
この施策はものの見事にハマり、現在、ドバイには世界100カ国以上から6000を超える企業が進出しているといわれている。
海外企業誘致の一環として、ドバイではタックスヘイブン税制度が敷かれている。
タックスヘイブンとは「租税回避地」のことであり、銀行、石油・ガス・石油化学会社を除いたすべての事業について非課税とされる。
それだけでなく、ローカル・スポンサーが不要、資本・利益の本国送金が自由、外国人労働者の無制限雇用など、様々な優遇措置が取られている。
日本では、累進課税制度が用いられているため、所得が4000万円を超える人の所得税率は45%とかなりの高額となっている。
なんとか日本の税制を回避したいと、ドバイなどタックスヘイブンに資産を移動することを考えている人も少なからずいるのではないだろうか。
しかし残念ながら、タックスヘイブンへの資産流出や移住が相次いだため規制が厳しくなり、そうした節税はあまり現実的ではなくなってきている。
タックスヘイブンへの資産移動や移住に関して、日本政府が行った対策は以下の2つ。
特に、国外財産調書の提出を怠ると50万円以下の罰金が科される可能性があるため、決して怠らないようにしたい。
節税のために罰金を支払うハメになるなど、本末転倒も甚だしい事態である。
さらに、相続税対策のために海外に移住することにも規制が入ろうとしている。2017年には相続税・贈与税の国外財産に対する納税義務の見直しがなされ、たとえ海外に移住しようとも相続税の支払いが義務付けられる。
これまでは、親子ともに5年以上海外に在住していれば日本の相続税が課されることはなかったが、法改正により5年から10年超へと期間が延長となった。
相続税・贈与税の課税を避けるためだけに、タックスヘイブンへの移住しようと考えている人は、それが本当に家族にとって幸福な手段であるのかどうかを事前にしっかりとかんがえておかなければならない。
では、移住とまではいかなくとも、日本とタックスヘイブンを行き来して節税対策を行おうとした場合にはどうだろうか。
残念ながら、ここにもしっかりと対策が張り巡らされている。
2019年より、国際観光旅客税が課せられることが法律で制定された。つまり、出国税である。
日本から海外に渡航する場合、1回につき1000円を国に納めなければならないのだ。
節税のために出国税を支払わなければならないなど、非常にばからしいと思わざるを得ない状況が作り上げられてしまったのである。
「納税」は日本人の義務である。いくら日本の税制に疑問を持っていたとしても、しっかりと納めるべきものは納めなければならない。